オープンソース · Apache-2.0 · 2026年8月公開

Cloudflare OSの正体

見た目は「連携機能つきのAIチャット」。中身は、ソフトを全員で共有するという25年続いた常識をひっくり返そうとしている仕組みです。

作った人
Kenton Varda
Cloudflare Workers の生みの親
規模
約46万行 / 26部品
星 9,200 · フォーク 1,000
使用条件
誰でも無料
改造も商用利用も自由
いまの状態
Cloudflare社内で毎日稼働
社外向けには早期版

一言でいうと

全社員に「自分専用のアプリ」をAIに作らせる。
しかも、何をやらかしても事故らない。

そのための土台一式が、まるごと無料で公開されました。Cloudflare社では実際に数千人の社員が——エンジニアだけでなく営業も含めて——毎日これで仕事をしています。

出発点

いまのAI活用が抱えている、3つの詰まり

権限

つなぐと、鍵束ごと渡すことになる

いまのAI連携は、一度メールをつなげば「受信箱まるごと」が見える状態になります。「この1通だけ」という渡し方ができない。

中断

確認待ちで、AIが止まる

「送信していいですか?」と聞かれるたびに作業が止まる。面倒になった人は結局「全部自動で承認」に切り替える。いちばん危ない設定が、いちばん使われてしまう。

停滞

「あと一機能」を、誰も足せない

会社のツールは全員で1つを共有しているので、機能が足りなければ提供元に要望を出して待つしかありません。

解き方

これを解くための、3つの発明

アプリを「共有」ではなく「一人一台」にする

Gadget

Cloudflare OS でスライドを作ると、みんなで使う共有のスライドソフトを呼び出すのではなく、あなた専用のスライドソフトが1つ、その場で生まれます。他人のものとは完全に別の個室で動きます。

たとえるなら

会社に1台の複合機に並ぶのをやめて、全員の机に1台ずつ置くようなもの。

これまで

1つのアプリを全員で共有。バグが1つ見つかれば全員のデータが危ない。機能追加は提供元頼み。

Cloudflare OS

事故が起きても、被害はその個室の中だけで止まる。だからAIに好き勝手に改造させても怖くない。

外部サービスとの間に「門番」を立てる

Gatekeeper

メールやチャット、社内システムにつなぐときは、あいだに必ず門番が立ちます。門番の仕事は4つ。

  • 必要な1つだけ通す。「メール全体」ではなく「このメール1通」。リンクを貼った瞬間に、その分の鍵だけが発行されます。
  • すべて記録する。AIが何を見て、何をしたか。あとから人間が読める形で残ります。
  • 止めずに確認する。ここが最大の発明(下記)。
  • 取り消せる。いったん承認した操作も、あとから巻き戻せます。

最大の発明 — 止めずに確認する

AIには「やりました」と伝えて先へ進ませ、実際にはまだやっていない。

人間は都合のいいときに、たまった操作をまとめて承認するか、捨てるかを選びます。AIは承認待ちで一度も止まりません。「面倒だから全部自動承認」に逃げる理由そのものを消したのが、この設計の本当の価値です。

たとえるなら

部下が書類を全部下書きして机に積んでおき、上司は空いた時間にまとめてハンコを押す。部下は上司待ちで手が止まらない。

門番はもう一つ、共有事故も止めます。作ったアプリを誰かに渡すとき、「その人はこの情報を、そもそも自力で見られる権限があるか」を毎回検査し、なければ共有そのものを拒否します。アプリ越しに権限のない情報が覗ける、という漏れ方を防ぐ仕組みです。

作ったアプリが、完成した瞬間からAIと使える

Code Mode

ふつうは、アプリを作ったあとに「AIから操作できるようにする」追加工事が必要です。Cloudflare OS はアプリの作り方そのものを縛ることで、できあがった時点で、すでにAIが操作できる状態にしています。

だから「AIに作らせたアプリの中で、そのままAIと共同作業する」が、設定ゼロで成立します。しかもリアルタイムの共同編集も、頼まなくても最初から付いてきます。

ついでに — レシピを配る

便利なアプリができたら、他の人にレシピとして配れます。受け取った人は自分専用のコピーを作り、さらに自分好みに作り変えられる。料理そのものではなく、レシピを配るイメージです。

名前の理由

なぜ「OS」と名乗るのか

宣伝文句ではなく、構造がWindowsやmacOSと本当に対応しています。

従来のOSとの対応関係
ふつうのパソコンCloudflare OS
中枢(カーネル)本体サーバー
周辺機器のドライバ門番(ゲートキーパー)
デスクトップ画面操作画面
起動中のアプリ一人一台のアプリ
アプリの実行ファイルレシピ
利用者利用者
該当なしAIエージェント

最後の行が主張の核心です。AIを人間の利用者と同じ扱いにしてはいけない——人間に対して責任を負いながら、自分自身は制限された権限しか持たない、新しい種類の住人だ、と。従来のOSにこの居場所がないことこそが欠陥ではないか、という問いかけになっています。

背景

10年越しのリベンジである

中心人物の Kenton Varda は、世界中のWebサイトを動かしている Cloudflare Workers という基盤の生みの親です。公開されたコードの半分以上を、いまも本人が書いています。

実は彼は10年前、まさに同じ「一人一台のアプリ」を実現しようとした Sandstorm.io というスタートアップをやり、うまくいきませんでした。当時どうしても足りなかったのは、利用者が自分でアプリを直す手段。それをAIが埋めた——本人いわく「10年越しの計画の集大成」です。

正直なところ

いますぐ会社に入れられるか

結論

誰にとって、うれしいのか

社内にAIを入れたい担当者

「素人が好きに作っても事故らない」を、ルールではなく仕組みで担保できます。導入するなら自社向けに作り変える前提で。

AIの仕組みを作っている人

導入しなくても、門番の3つの設計(止めない承認・共有前の権限検査・その都度の鍵)は他でも真似できます。最大の持ち帰りはここ。

ソフトの未来が気になる人

「みんなで1つのサービスを使う」から「一人一台を自分で直す」へ。その主張を本気で実装した、最初の実物です。

プロダクトとしては、まだ荒い。
けれど設計思想としては、いま最も読む価値のある公開ソースの一つです。